新シーズン開幕! 始動に向けての決意表明のように響いたブルックナー「交響曲第6番」

【PACファンレポート57兵庫芸術文化センター管弦楽団 第135回定期演奏会】さぁ、PAC(兵庫芸術文化センター管弦楽団)の定期演奏会2022-23シーズンの始まりだ。9月17日土曜、台風の動向を気にしながら早めに会場に向かった。開演前に訪ねたかったお目当てはホワイエにある小さな展示スペース「ポッケ」。新メンバーを含むPACのコアメンバー41人のコメントなどが展示されているのだ。一人ひとりのコメントをゆっくり見ていって、新メンバーに地元・西宮出身のコントラバス髙本知弥、宝塚出身のティンパニ/パーカッションの森山拓哉の2人がいることを知って、なんだか“わが街のオーケストラ”感がアップしたような……。

「ポッケ」の展示は10月10日(月・祝)まで

定期演奏会に通い続けての発見は、奏者を身近に感じると演奏会がグンと楽しくなることだ。お気に入りのマイシートからは奏者全員がよく見える。「今日はあの子が光ってた!」と反芻しながらの帰り道は足取りも軽い。定期会員になるのは、最近はやりの“推し活”の一つなのかもしれない。

 

恒例の佐渡裕芸術監督のトークは、いつもの開演前より少し遅れて始まった。「午前中、神戸女学院で講演してきたんですよ」と理由を明かした佐渡さんは16人の新メンバーを迎えた喜びと、この日の演奏曲を紹介した。

「ハイドンの交響曲第90番とブルックナーの交響曲第6番。この組み合わせは僕の大好きなプログラムです。ハイドンは18世紀のウィーン古典派、ブルックナーはドイツ・オーストリアの後期ロマン派の作曲家で、趣は違いますが、一緒に演奏すると気分が高揚します。

僕は若いころ、ブルックナーよりもマーラーに魅力を感じていましたが、最近はブルックナーにはまっています。今日演奏する第6番はPACと挑む5作目のブルックナー。演奏時間は1時間を超えます。寝てしまってもいいですが、どうぞお楽しみください」。最後のジョークに小さな笑いがさざ波のように広がった。

 

2022年9月のプログラムの表紙は寺門孝之さんの新シリーズ「風景の風の天使」。阪神間で海山のあわいを行き来する風に想いを馳せて描いたという

生涯に100以上の交響曲をはじめ多数の曲を残したフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)の「交響曲第90番」は、フルート、オーボエ2、バスーン2、ホルンとトランペット各2とティンパニ、弦楽5部の小編成のオーケストラでの演奏曲。佐渡さんは指揮棒を持たず、両手で優雅に指揮。新メンバーのオーボエ、台湾出身のホァン・シーインと3年目のメンバー、イタリア出身のフルート、フランチェスカ・ブルーノの息がぴったりで、流れるようなメロディーを軽快にリード。小ぶりのティンパニは森山が叩いていた。

プログラムの解説で「第4楽章に奇想天外な仕掛けがある」と書かれていたが、私を含めこの日の聴衆の多くは見事に引っかかってしまった。。。ユーモア精神にあふれた作曲家ハイドンは、この曲を演奏する時の聴衆の反応を大いに楽しんでいたに違いない。

 

大がかりな舞台転換の後は、82人の大編成で演奏するアントン・ブルックナー(1824-1896)の「交響曲第6番」。躍動感にあふれた曲を、佐渡さんは大胆なタクトさばきで全身を使って指揮。8台のコントラバスが低音部を重厚に支える、骨格の確かな壮大な曲で、私には新生PACの決意表明のように聞こえた。

弦楽器がピチカートで紡ぎだす切れのいいリズムが現代的な響きをもたらし、主役が木管から金管へ移る時にクラリネットやホルンが活躍して曲の世界観を巧みに広げていく。4つの楽章の中で、第2楽章は非常に優雅で美しく陶酔させられた。

アンコールに取り上げたのは、コロナ禍が始まった2年前、「HPAC すみれの花咲く頃プロジェクト」で私たちを勇気づけてくれた「すみれの花咲く頃」。ブルックナーには参加していなかった森山がドラムで入り、ヨーロッパからのゲスト・トップ・プレイヤーも、そしてなんと佐渡さんも鍵盤ハーモニカ(!)で全員参加の楽しい演奏だった。

佐渡さんの演奏姿を伝える兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の公式ツイッターの投稿はコチラ

 

コンサートマスターは田野倉雅秋。ゲスト・トップ・プレイヤーはヴァイオリンの戸上眞里(東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、チェロのヤカ・シュタッドラー(バイエルン放送交響楽団奏者)、コントラバスのウルリッヒ・ウォルフ(元ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団奏者)、トランペットのハネス・ロイビン(元バイエルン放送交響楽団ソロ首席)、ティンパニのミヒャエル・ヴラダー(ウィーン交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはオーボエのクリストフ・ハルトマン(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団奏者)。PACのOB・OGはヴァイオリン8人、ヴィオラ3人、チェロとコントラバスが各1人参加した。(大田季子)

 




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